子ども時代の「逆境体験」は将来に影響する?

子育てノウハウ

幼少期に虐待を受けた経験や、家族の精神的な疾患、DVなどの出来事が重なるほど、成人後の心身の健康に対するリスクが高まることが明らかになっています。
こうした現状への理解を深めるとともに、困難な環境を生き抜いてきた人々が孤立することなく、適切な支援につながる社会の実現を目指し、当事者や研究者、支援団体が2025年10月27日に参議院議員会館に集まり、提言を発表しました。
(※2025年11月18日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

見えにくい苦しさに寄り添う社会へ-ACEと支援の必要性

「生きづらさは決してあなた自身の責任ではありません」。
こうしたメッセージとともに、理解と支援の重要性が訴えられています。
集会では6人の当事者が登壇し、それぞれの体験や思いを語りました。
例えば、特定の信仰を絶対とする家庭環境の中で体罰や感情的な抑圧を受け、複雑性PTSDや精神的な不調に悩んでいるケースや、自身が「ACEサバイバー」であると最近になって気づいたものの、相談先が分からず孤立していたという声がありました。
また、「今生きているのは運が良かったから」という言葉が当事者間では当たり前のように語られている現状に対し、今後は個人の運に頼るのではなく、制度や政策による支援が広がるべきだという意見も示されました。
ここでいう「ACE(Adverse Childhood Experiences)」とは、虐待やネグレクトなど、18歳までの子どもにとって心に深い影響を及ぼす可能性のある体験を指します。
具体的には、身体的・心理的・性的な虐待や育児放棄、家族の精神疾患や自殺未遂など、主に10項目が挙げられます。場合によっては親の死といった出来事も含まれます。
ACEの経験がない人と比較すると、経験数が多いほど成人後の健康リスクが高まりやすく、失業や貧困、社会的孤立といった問題に直面する可能性も高くなることが分かっています。
1990年代に米国で行われた研究では、ACEを4つ以上経験した人は、未経験の人に比べてがんの発症リスクが1.9倍、アルコール依存が7.4倍、希死念慮が12.2倍に上るという結果が示されました。
また、日本国内でも2021年に京都大学が実施した調査(回答者約2万人)により、少なくとも1つのACEを経験した人が38.4%にのぼることが明らかになっています。
さらに、ACE研究に取り組む大阪大学大学院の三谷はるよ准教授によると、国内の複数の調査結果から、特にリスクが高いとされる「4つ以上のACEを経験した人」は約440万人に達すると推計されています。
三谷准教授は、これらの問題は単なる個人の努力不足や自己責任で片付けられるものではなく、人権に関わる重要な課題として社会全体で捉える必要があると指摘しています。
そして当事者に対しては、「その生きづらさはあなたのせいではない」という認識を持ってほしいと強く呼びかけています。

ACEサバイバーを取り巻く現状と求められる支援体制体

ACEサバイバーが抱えるトラウマや生活上の困難に対しては、社会的な理解や支援が十分とは言えない状況です。
自身も当事者であり、一般社団法人Onaraの代表理事を務める丘咲つぐみさんが中心となって実施した調査(回答者851人)では、周囲の無理解や偏見によって再び心に傷を負う「二次被害」を経験したと答えた人が64.3%にのぼりました。
二次被害を受けた場としては、「医療機関」が57.3%と最も多く、「福祉機関」「行政機関」「教育機関」もそれぞれ約4割程度(複数回答)を占めています。
具体的には、「被害を軽く扱われた」「話を信じてもらえなかった、あるいは否定された」「本人にも責任があるかのように示唆された」といった対応が多く報告されています。
こうした実態を踏まえ、丘咲さんらは、行政や医療、福祉の現場において、すべての人がトラウマを抱えている可能性を前提に関わる「トラウマインフォームドケア」の研修を義務化する必要があると提案しています。
さらに、ACEサバイバーの実情を正確に把握するための全国規模の公的調査の実施や、相談先が分からず孤立している人のための専門的な総合相談窓口の整備も求められています。
丘咲さんは、これまでに多くの当事者が自ら命を絶つ現実に直面してきたと語ります。そして、「虐待や逆境体験は子ども時代だけで終わるものではなく、その影響は大人になってからも続く場合があります。困難を乗り越えて生きてきた人たちが命を絶つ選択をせざるを得ない状況を、社会全体で変えていく必要があります」と強く訴えています。