「子どもが好きで教員になったのに」辞める30代前後は後を絶たず

キッズパーク豆知識

働き方改革がなかなか進まないとされる教務職。
ベビーシッターなどを上手く利用して続けてもらいたいものですが、やむを得ず退職する教員も多いそうです。

「ご迷惑をおかけするので、退職します」・・・
関東地方に住む38歳の女性は、昨年、公立中学校に勤務していた際に校長へそう伝えました。
子育てとの両立が難しく、すでに部分休業制度を利用して勤務時間を短縮していたものの、さらに1日あたり2時間の短縮ができないか相談しましたが、実現には至りませんでした。
「人手の確保が厳しい」と話していた校長から、引き止めの言葉はありませんでした。
「本当は、これからも教壇に立ち続けたかった。でも、私には子育てと教職を両立することが難しかったのです」と女性は語ります。
大学在学中、将来の選択肢を広げるために教職課程を履修していたものの、4年生のときに参加した教育実習が転機となりました。
生徒が教師の一言で前向きに変化していく様子に感動し、子どもたちと向き合う仕事の魅力に気づいたのです。
その後、必死に勉強を重ねて教員採用試験に合格し、内定していた企業の就職を辞退して教職の道へと進みました。
教師という仕事には大きなやりがいを感じていました。
生徒一人ひとりが自分の得意なことや好きなことを見つけられるよう、常に寄り添って接してきました。
「先生が担任でよかった」と言ってもらえたときの喜びは、今でも忘れられないそうです。
(※2025年7月28日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

増え続ける負担の中で・・・教職と子育ての両立に向き合った日々

毎朝、始業の30分以上前には学校に到着し、夜の9時まで残ることが日常でした。
帰宅後も、翌日の授業準備やテスト作成などの業務に追われる生活を送っていました。
子どもが大好きで、「いつかは自分の子を育てたい」と願っていた女性は、27歳で同じ教職に就く男性と結婚し、29歳で長女を出産しました。
産休・育休を取得したのち、約1年半後に職場へ復帰。
育児短時間勤務制度を活用し、勤務は午後3時10分までとしました。
長女を寝かしつけた後の夜の時間には、自宅で採点や準備の作業をこなすことで、仕事と家庭を何とか両立してきました。
2020年には次女が誕生し、再び育児休暇を取得。
2023年4月に現場へ戻り、その後すぐに別の中学校への異動がありました。
勤務時間はこれまでと同様、午後3時10分までの部分休業を継続していましたが、次女には食物アレルギーがあり、幼稚園で提供される食事を食べられないため、毎日弁当とおやつを手作りする必要がありました。
夜は授業関連の作業に加え、翌日の食事の準備もこなす日々。
さらに、小学生となった長女の宿題にも付き合うようになり、子育てにかかる時間は以前より確実に増えていました。
校内では、副担任や部活動の副顧問といった配慮は受けていたものの、担当していた国語の授業では、中学3年生全クラス、170人以上の生徒を受け持つことになりました。
過去最大の担当人数で、テストの採点も膨大、授業準備の負担も大きく、心身ともに厳しい状況が続いていたのです。

理想の働き方は非常勤でしか実現できないのか・・・

会議がある日は午後6時まで職場に残り、部活動の副顧問としては、週末の大会に早朝から生徒を引率することもありました。
夫も家事や育児に協力してくれていましたが、女性の生活は平日でも午前2時に就寝し、午前5時には起床という過酷なものでした。
心も体も限界を迎え、長女は学童保育、次女は延長保育を利用して夕方に迎えに行っていたものの、子どもたちの話に耳を傾ける余裕がありませんでした。
その影響か、娘たちも不安定な様子を見せるようになりました。
勤務時間を午後1時ごろまでに短縮できないか相談しましたが、希望は通らず、退職という決断に至りました。
「教職を続けていれば、もっと多くの生徒の可能性を伸ばせたかもしれない」と彼女は感じています。
自身が母親になったことで、生徒や保護者の気持ちに寄り添えるようになったと実感していたからです。
「以前は、ルールを守らせることばかりに気を取られていました。でも、自分に子どもができてからは、生徒の感情や背景にも思いを巡らせるようになりました」と語ります。
授業への自信も増し、「経験を積むごとに授業の質が向上しているという手応えがありました。去年より今年、今年より来年と、自分の中で進化を感じていました」と振り返ります。
その思いがあるからこそ、辞めざるを得なかったことが今でも残念でならないのです。
現在は非常勤講師として、午前8時15分から午後1時15分まで勤務しています。
家庭で子どもと過ごす時間が増えたことは喜ばしい反面、希望していた働き方が正規の立場では実現できず、非常勤という形でしか叶わない現実に対し、複雑な思いを抱えています。
「長時間働けなければ、正規の教員は務まらないのでしょうか」と疑問を感じています。
柔軟な勤務形態が整わなければ、家庭に無理が生じ、教職はごく一部の人しか続けられない職業になってしまう――。
そう女性は懸念しています。「子どもと関わる仕事だからこそ、自分の家族を大切にできないようでは、生徒に本当の意味で寄り添うことはできないのではないか」と話します。
子どもを愛する気持ちから教員になったのに、自分の子育てとは両立できない―。
そう感じる先生たちがいます。
今年6月には、公立学校教員の勤務条件を定めた改正教員給与特別措置法(給特法)が成立し、長時間労働の是正に向けた取り組みが掲げられました。
果たして、教員の働き方改革は今後、どこまで進むのでしょうか。

家庭の事情で教職を離れる若手教員たちは30代前後に集中

文部科学省が実施した学校教員統計調査によりますと、2021年度に公立中学校を離職した教員は8,477人にのぼりました。
このうち、定年退職(勧奨退職を含む)以外の理由で退職した人は3,640人でした。
その中でも、「家庭の事情」、つまり育児や介護といった要因で離職した教員は724人に達し、定年以外の退職者の約2割を占めています。
年齢別の内訳を見てみますと、「家庭の事情」により退職した教員の人数が特に多かったのは「25歳以上30歳未満」が118人、「30歳以上35歳未満」が111人で、いずれも全体の中で上位に入っており、若い世代を中心に家庭と教職の両立に悩む現状が浮き彫りになっています。