広がる「スキマバイトで保育」保育現場の懸念と課題
キッズパーク豆知識
2025.10.03
子どもを預かる保育施設などで、空いた時間を活用して短時間だけ働ける「スポットワーク(スキマバイト)」の活用が広がっています。
人手不足が深刻な現場にとって、すぐに働ける人材を確保できる点は大きな利点とされています。
一方で、履歴書の提出や面接を経ずに採用される保育士が頻繁に入れ替わることで、現場の安定性に対する懸念も専門家の間で指摘されています。
このような状況を受け、こども家庭庁は継続的な利用に慎重になるよう通知を出しています。
(※2025年5月9日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
資格なしでもすぐに働けてしまう・・・保育の現場で広がるスポットワーク
「申し込んですぐに働けるのは本当にありがたいです。実際に現場で働いてみて、職場の雰囲気を知ることができるのも魅力でした」
東京都在住の39歳の女性は、今年2月に放課後児童クラブでの勤務が決まるまで、短時間勤務が可能な「タイミー」というアプリを利用して、保育施設や児童発達支援事業所、飲食店などで働いていました。
新型コロナの影響で仕事を失ったことを機に、彼女は独学で保育士資格を取得しました。
その後、企業主導型の保育所でパートとして働きながら、スポットワークを始めたそうです。多い月には5?10回勤務し、時給は1,100~1,300円程度でした。
「タイミー」は、基本情報と本人確認書類を事前に登録することで、希望の仕事に申し込むことができ、早い者勝ちで勤務先が決まる仕組みです。
原則として履歴書や面接は不要で、すぐに仕事を始められるのが特長です。
彼女が働いた保育施設では、保育士証の提示は求められたものの、面接や事前研修はありませんでした。
施設によっては履歴書を求める場合もあるそうです。
業務指示が明確で安心して働ける場合もあれば、戸惑う場面もあったと話しています。
「子どもと1対1にならないようにと教えられていたのに、園児のトイレに付き添ってほしいと頼まれました。不安だったので、後で園長先生に報告しました」
「タイミー」によると、2024年2月から7月までの保育施設での求人掲載数は、前年同期比でおよそ2倍に増加しています。
アプリ上では、保育園や幼稚園、学童保育、障害児のための放課後等デイサービス、英語環境のプリスクールなど、子どもを預かる施設の求人が多数掲載されています。
資格保有者向けの求人が多い一方で、「無資格OK」とする案件も一部で見受けられます。
求人を出す事業者側にとっては、必要なタイミングで迅速に人材を確保できる利点があり、実際に良い人材であれば長期雇用に発展することもあるようです。
ある施設運営者は、「清掃や壁面装飾などの補助業務を中心に任せることで、正規の保育士の負担軽減につながっています」と語っています。
また、深刻な人手不足に直面している自治体の中には、保育や介護分野の人材確保を目的として、アプリ運営企業と連携協定を結んでいるケースも出てきています。
スポットワークに依存する保育施設-運営の不安定さと課題
新しい働き方として注目されるスポットワーク。
しかし、保護者の中には「どのような人が来るのか不安」といった懸念の声もあります。
こども家庭庁は、2024年2月中旬に、保育士1人あたりの子どもの人数を定める国の配置基準について、常勤保育士がスポットワークで採用された保育士を基準人数に充てることは望ましくないとする通知を全国の自治体に出しました。
急な欠勤が出た場合などにスポットワークを活用することは問題ないとしていますが、保育政策課の担当者は「保育は子どもと安定的で継続的な関わりが重要であり、基本的には常勤保育士で運営するべきです」と説明しています。
しかし、慢性的な保育士不足に悩む施設では、スポットワークに頼る形での運営が続いています。
東京都内の認可保育所で働いていた30代の女性保育士は「スポットワークの保育士をカウントしなければ、配置基準を守ることができない状況でした。毎日異なる人が入れ替わり、一から教えるのはとても大変でした」と話しています。
そのような運営体制と過重労働により、同僚の数人が辞職していったとのことです。
彼女は「事故のリスクが高い水遊びやお散歩も任せていました。大きな問題が起きる前に、国や自治体は早急に対策を講じるべきだと思います」と語っています。
国は2024年度に、保育士1人が担当する4~5歳児の人数を30人から25人に見直す予定です。
また、2026年度には、保護者の就労要件に関係なく、すべての子どもが保育所を利用できる「こども誰でも通園制度」を全国で導入する計画です。
もし保育士不足がさらに悪化すれば、スポットワークに依存せざるを得ない施設が増加する可能性が高いとされています。
保育施設における安全管理の不均衡とリスク
保育施設での重大な事故は増加傾向にあり、子どもに対する不適切な対応や乱暴な扱いが問題視されています。
保育の質が低下しているとの指摘がなされる中、アプリ運営事業者は現状をどのように受け止めているのでしょうか。
「タイミー」の広報担当者は、人手不足が続く中では子どもへのケアが十分に行き届かないリスクがあると述べ、「安全で質の高い保育サービスを提供するためには、適切な人員が必要です。
スポットワークはその人手不足を解消する手段となり得ます」と話しています。
同社は求人を出す事業者に対して、有資格者のみを対象にした募集を推奨しています。
また、過去に不適切な行為で保育士登録を取り消された人物がいないか、国が運営するデータベースで事前に照合することも案内しています。
資格や経験に応じて業務を細分化し、子どもと1対1で接することがないよう、既存の職員が監視できる範囲で働くことを推奨しています。
一方で、「LINEスキマニ」を運営するLINEヤフーや、パーソルグループのシェアフルは、資格が必要な業務については求人にその旨を明記するよう求めています。
シェアフルは、「どのような求人を出すかは事業者の判断であり、法的に定められた人数や有資格者を配置することは事業者の責任で順守されるべきだ」としています。
ただし、施設側の保育の質や安全に対する意識にはばらつきがあり、過去に発生した事故では、調査を通じて施設のずさんな管理が明らかになることもあります。
東京都内で働いていた31歳の女性保育士は、「命を預かっている立場でありながら、安全や衛生管理が不十分な危険な施設も存在していました」と語ります。
昨年の夏、アプリを通じて引き受けた認可外保育所では、求人に記載されていなかった屋外でのプール監視業務を任され、1人で1~2歳児を含む9人の子どもを担当しました。
以前働いていた保育施設では、水遊びの際には監視役と遊泳指導役を分けるなど、安全確保のための細かいルールが存在していたとのことですが、その施設では子どもに水分補給をさせる意識も低く、保育が場当たり的に行われているように感じたと言います。
この女性は「配置基準すら守られておらず、事故が起こってもおかしくない状況でした」と振り返っています。