子どもの近視、発症率のピークは8歳。外遊びが近視を抑制?
キッズパーク豆知識
2025.07.11
近年、近視の増加は世界的な課題となっています。
京都大学の研究チームが診療報酬明細書(レセプト)をもとに分析を行い、14歳以下の日本の子どもにおける近視の発症に関する研究成果を米国の専門誌に発表しました。
この調査によると、新たに近視を発症する割合は8歳で最も高くなることが分かりました。
また、3~8歳の間での発症率は年々上昇しており、子どもの近視がより早い段階で始まっている傾向が顕著になっています。
(※2025年3月19日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
子どもの近視、年齢とともに増加。全国データから見えた実態
京都大学の研究チームは、国が保有する全国規模の診療報酬明細書(レセプト)などのデータベースを活用し、2014~2020年の間に0~14歳の子どもが近視または強度近視と診断された数をもとに、有病率と年間発症率を分析しました。
その結果、2020年10月1日時点で近視(強度近視を含む)と診断された0~14歳の子どもは約550万人にのぼり、有病率は36.8%でした。
年齢が上がるにつれて近視の有病率も高まり、14歳では83.2%に達していました。
また、男女別に見ると、女児のほうが男児よりも高い有病率を示す傾向が明らかになりました。
8歳でピークに達する近視発症、年齢別データが示す若年化の進行
年齢別に見た近視の新規発症率では、8歳が最も高く、2020年には1万人あたり911人が発症していたことが分かりました。
3~8歳の各年齢層での発症率は、2014年から2020年の間に増加傾向を示しており、近視の若年化が進行している様子が明らかです。
一方で、すでに近視を発症している子どもが増えている10~14歳の年齢層では、新たな発症率は年々減少する傾向が見られました。
また、強度近視の有病率は10~14歳で0.46%となっており、発症率については5~9歳、そして10~14歳のいずれの年代でも年を追うごとに上昇しています。
近視の進行を防ぐには生活習慣がカギを握る
京都大学国際高等教育院の田村寛教授は、近視の原因について「おおよそ7割が遺伝的要因で、残りの3割は生活環境によるものと考えられてきました」と説明しています。
最近では、屋外で過ごす時間が減り、デジタル機器を使ったゲームや勉強といった近距離での作業が増加しているため、近視の発症年齢が早まっている可能性もあると指摘します。
近視の増加は世界的に見られる現象であり、特に東アジア地域で顕著です。
強い近視は、将来的に緑内障や網膜剥離などの重大な眼疾患のリスクを高めることが知られています。
そのため、近視の発症を未然に防ぎ、進行を遅らせる取り組みが重要な課題となっています。
近視はすべてが悪いわけではない?年齢とリスクを正しく理解しよう
京都大学の特定講師(眼科学)、三宅正裕氏は「50代以降に始まる老眼の時期には、軽度の近視がむしろ生活の中で役立つこともあります。
ですので、近視そのものを過度に恐れる必要はありません」と説明しています。
ただし、幼少期に発症する近視や強度近視については、将来的にさまざまな眼の病気を引き起こすリスクがあることも事実です。
そのため、「定期的に眼科を受診し、自分の視力状態をしっかり把握することが非常に重要です」と三宅氏は強調しています。
屋外活動と点眼薬の活用で近視の進行を防げる!
子どもの近視を予防・抑制するには、どのような方法があるのでしょうか。
私たちが物を見るとき、光は角膜と水晶体を通って屈折し、網膜に像を結びます。
近視の多くは、角膜から網膜までの距離、いわゆる眼軸が長くなってしまうことによって生じます。
その結果、遠くを見る際に水晶体が薄くなっても、焦点が網膜より手前で合ってしまい、像がぼやけて見えるのです。
このような近視の進行を遅らせるために、専用の目薬を使用する方法や、屋外で過ごす時間を増やすといった予防策が注目されています。
国内初の近視進行抑制点眼薬が登場。治療の新たな選択肢に
昨年末、日本国内で初めて近視の進行を抑える目薬が薬事承認を受けました。
この薬は、大阪市に本社を構える参天製薬が申請した「アトロピン硫酸塩水和物」(商品名リジュセア)で、主に軽度から中程度の小児を対象としています。
販売は4月21日から開始されます。
この目薬は、網膜や強膜に作用することで、強膜が薄くなるのを防ぎ、眼軸が過度に伸びるのを抑える仕組みとなっており、結果として近視の進行を抑える効果が期待されています。
一方で、使用にあたっては普通の光がまぶしく感じられるなどの副作用が確認されており、公的な医療保険の対象外となっています。
また、特殊なコンタクトレンズや専用眼鏡による治療方法もありますが、これらもすべて自由診療扱いです。
外で遊ぶことが目を守る?科学的根拠に基づく近視予防の取り組み
医療的なアプローチに加え、子どもたちの生活習慣を見直すことで近視を予防しようという試みも進められています。
台湾ではこの分野に注力し、国を挙げて屋外活動の推進に取り組んでいます。
動物実験の結果から、太陽光を浴びることで眼軸の伸びを抑える効果があるとされており、さらに屋外での時間が増えることで、近距離での作業が減る点も影響していると考えられています。
京都大学の三宅正裕さんは昨年、信頼性の高いランダム化比較試験という方法を用いた海外の小学生に関する5つの研究を総合的に分析した論文を発表しました。
それによると、屋外活動の時間を増やすことで、3年後の近視発症率が9.3ポイントも低下し、予防に効果がある可能性が高いことが明らかになりました。
ただし、一度近視を発症した子どもについては、屋外活動が進行を抑制するかどうかは現段階では結論が出ていないとしています。
日本でも文部科学省が屋外活動の重要性を認識し、推進していますが、三宅さんは「予防効果は高い信頼性で示されており、台湾でもその成果が見られました。
日本でも政策レベルでの導入を検討すべきではないでしょうか」と提案しています。