多胎児の保護者が繋がれる!多胎妊娠・育児に特化したアプリ

キッズパーク豆知識

双子や三つ子など、多胎児を育てる家庭の保護者たちが、多胎妊娠や子育てに特化したスマートフォン向けアプリの開発を進めています。
このプロジェクトには、交流会やSNSを通じて出会った100人以上の仲間が参加しています。
「いつでもどこでもつながり、支え合える居場所をつくりたい」こんな願いが、かたちになろうとしています。
多胎妊娠・育児は一般的なノウハウが通用しないことも多いです。そんな保護者達が悩みを相談でき場所は必要とされてきました。
時にはベビーシッターなどもうまく利用して、大変な多胎育児を乗り越えていってほしいですね。
(※2025年2月22日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

双子を授かって知った育児と命の現実・・・ある母親の体験談

このプロジェクトを立ち上げたのは、福岡市中央区に住む育児支援団体の代表、牛島智絵さん(40)です。
彼女は現在、3歳になる双子の男の子を育てています。
4年前、近くの産婦人科で妊娠が判明したときは、喜びに満ちていました。
しかしすぐに、「この施設では双子の出産には対応できません。大きな病院に移ってください」と告げられ、現実を突きつけられました。
紹介された病院では、片方の胎児が途中で亡くなる可能性や早産のリスクなど、重い説明があり、「双子には安定期はない」とも言われたそうです。
そのときの不安は計り知れないものだったといいます。
1人育てるのにも産後鬱になったりする人も多い現実。産前産後の大変さは想像を絶するでしょう。
寝かしつける前に自分が寝落ちしてしまうかもしれませんね。

双子育児のリアルと希望をつなぐSNSの出会い

多胎児の出産は、国内全体のわずか約1%とされています。
牛島智絵さんの身近には同じ経験をした人がおらず、情報を求めてSNSで当事者を探し、片っ端から連絡を取り始めました。
そうして出会ったのが、東京都調布市に住む会社員の古島夏美さん(34)です。
古島さんは現在、4歳の双子の女の子を育てており、その日常をSNSに投稿していました。
例えば、2人を連れて外出した際に同時に泣かれてしまい、慌てて帰宅した出来事。
双子を連れてカフェで少しだけリラックスするための工夫や、外出時に荷物を減らすためのテクニックなど、実体験に基づいた知恵を発信していました。
古島さん自身も、妊娠が判明した当初は不安でいっぱいだったといいます。
SNS上では「多胎育児は記憶を失うほど大変だった」といった声も見られましたが、彼女は「育児を楽しみたい。双子だからといって諦めたくない」と語ります。
そんな2人が共感し合い、注目したのがスマートフォン向けの妊娠・育児アプリです。
赤ちゃんの成長を記録したり、必要な情報を手軽に得られたりするこのツールに、多胎育児のサポートの可能性を見出しました。

多胎育児に寄り添う場所をアプリで届ける!

牛島智絵さんは妊娠中から複数の妊娠・育児アプリを活用してきました。
しかし、利用してみると、表示される母体の状態が自身と大きく異なっており、十分に参考にならないことが多かったといいます。
牛島さんは、大手アプリ会社3社に「多胎児に対応したアプリの開発予定はありますか」と問い合わせましたが、前向きな返答は得られませんでした。
「まるで双子や三つ子の親たちが、社会の中で取り残されているような気がした」と語ります。
出産から約1年後、牛島さんは福岡県内で多胎家庭向けの交流会を始めました。
多いときには親子あわせて約70人が参加し、会場に到着するや否や、安心して泣き崩れる母親の姿もあったそうです。
牛島さんは、「心から安心できるつながりや居場所を届けたい。そして、スマートフォン1つでどこからでも利用できる、多胎家庭のためのアプリが必要だ」と強く感じたと話しています。

100人の想いが形に!多胎家庭のためのアプリ誕生へ

牛島智絵さんは、福岡市がふるさと納税を活用して実施しているソーシャルスタートアップ成長支援事業に応募し、昨年5月に採択されました。
この取り組みに、古島夏美さんも加わり、SNSなどを通じて活動を広めました。
その結果、203人から寄付が集まり、目標額の300万円を達成することができました。
これをきっかけに、アプリの開発が本格的に始まりました。
また、交流会やSNSを通じてつながった多胎児を育てる保護者たちも、開発チームの一員として参加しています。
アプリのコンセプト作りやロゴのデザイン、操作性の改善など、100人を超える人々が協力しています。
「多胎家庭にもっと笑顔を届けたい」という想いを込めて、このアプリには「moms(moms of multiples smile)」という名前が付けられました。

あの頃の自分に届けたい・・・多胎家庭を支えるアプリが誕生へ

このアプリには、出産や育児の体験談を読んだり、利用者同士で情報交換ができたりする掲示板機能が備わっています。
また、タップひとつで各自治体の相談窓口に電話をかけられる機能も用意されています。
さらに今後は、2人乗りのベビーカーで入店可能な店舗を紹介するマップ機能も追加される予定です。
牛島智絵さんは「当時の自分が本当に欲しかったアプリです。これがあって良かった、とすべての多胎児家庭の方が思えるようになれば」と語ります。
一方、古島夏美さんは「いつでも、どこでもつながれて、励まし合える。そんな共感にあふれた、優しい居場所にしたい」と願いを込めています。
アプリの公開日は、語呂にちなんで2025(双子)年3月5日(三つ子)に予定されています。(※2025年2月22日時点の予定)

多胎育児のリアルを知ってもらうために。支援アプリへ高まる期待

日本多胎支援協会の理事であり、四日市大学の特任助教(社会福祉学)を務める松本彩月さんは、自身も14歳の双子を育てる母親です。
松本さんによると、多胎妊娠は妊娠初期からリスクについて説明されることが多く、不安な気持ちで日々を過ごすことになり、出産そのものが最終目標になってしまうケースが少なくないといいます。
ようやく出産を終えたかと思うと、目の前には複数の新生児がいて、そこから本格的な育児が始まります。
深刻な寝不足の中で、自分に必要な情報を探しに行くのは決して簡単なことではありません。
松本さんも「双子を1人でどうやってお風呂に入れるのかさえ分からなかった」と当時を振り返ります。
多胎家庭向けのアプリは、そうした特有の苦労を社会に知ってもらう手段にもなると松本さんは語ります。
「『一度に済んで楽でしょ』といった何気ない声かけが減るようになるのではないでしょうか」と期待を寄せています。