「子が安らげるように」日本も共同親権の導入へ
子育てノウハウ
2024.12.06
離婚後も父母の双方が親権を持つ「共同親権」制度が2026年までに導入されることが決まり、国会での審議を通じて様々な懸念や課題が指摘されました。離婚した夫婦が協力関係を築けるのか、また家庭内暴力(DV)が続く危険性はないのかといった疑問が投げかけられています。日本と同様に法改正を経て共同親権を導入したドイツやアメリカなどの各国の現状についても調査しました。
(※2024年9月26日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
離婚後の共同親権を選んだドイツの家族の実例
離婚後に、子ども3人が住む家に交互に1週間ずつ滞在し、面倒をみるという選択をした夫婦がドイツ・ベルリンにいます。17年間連れ添ったトーマス・イエシュタットさん(56歳)とドロテア・イエシュタットさん(49歳)は、裁判所での離婚手続きを目前に、共同親権を選びました。18歳の息子と15歳、12歳の娘の親権を二人で共有することで合意し、家族で住んでいたマンションに週替わりで住む形をとりながら、近くに別々の住居を借りて生活しています。二人が顔を合わせることはなく、毎週月曜日に交代でマンションに滞在しています。
家族法に詳しいイエンス・クリスティアン・ゲーケ弁護士によれば、離婚手続きにおいて最も重要視されるのは「子どもの福祉」であるとのことです。共同親権の場合、子どもは両親の家を行き来して生活するか、またはどちらかの家に住み、もう一方の親とは定期的に会う形を取ることが多いようです。トーマスさんとドロテアさんは、共に企業の幹部として働きながらも、子どもたちの生活環境をなるべく変えない選択をしました。ドロテアさんは「離婚を決めたとき、最も大切にしたのは子どもの安心でした」と話しています。
ドイツでは1997年の法改正により、未成年の子どもがいる夫婦が離婚した際には原則として共同親権が適用されるようになりました。しかし、ゲーケ弁護士によると、虐待などで子どもの福祉に危険が生じた場合は、裁判所が親権を剥奪することもあります。連邦統計庁のデータによれば、2023年の離婚件数は約12万9千件で、そのうち親権が裁判所により全部もしくは一部剥奪されたケースは約1万5千件にのぼります。
共同親権の導入とDVへの懸念、ドイツにおける離婚手続きの実情
日本において共同親権の導入を巡る議論では、離婚後に家庭内暴力(DV)が続く可能性が問題視されています。ドイツでは、離婚手続きに際し、共同親権に関する夫婦間の合意を示す声明などを裁判所に提出する必要があります。もしDVの事実があれば、裁判所はその状況や子どもの最善の利益のために、夫婦が離婚後も協力して決定を行えるかを確認します。
共同親権の下では、日常の育児に関することは片方の親が決められる一方で、進路や手術の必要性など、子どもの福祉に関する重要事項については両親の合意が求められます。トーマスさんとドロテアさんは、養育費の支払いや夏休みの過ごし方など、合意事項を8項目にわたって4ページの文書にまとめました。さらに、習い事など子育てに関する重要な決定についてはSNSを通じて連絡を取り合いながら進めています。ドロテアさんは「これまでに合意できなかった問題はありません」と語り、トーマスさんも「最低限の信頼と優しさがなければ、うまくいきません」と述べています。
また、意見が対立した際には、第三者の立場から仲介を行う「メディエーター」と呼ばれる専門家に相談することも文書に明記しています。メディエーターは当事者間の話し合いを促し、解決策の提案を行う役割を担います。ドイツでは、2012年に施行されたメディエーション法に基づき、公認のメディエーターになるには一定の知識や訓練が必要です。ベルリンで公認メディエーターとして活動するクリスティアン・フォン・バウムバッハさん(45歳)は、「子どもや夫婦にとって何が重要であるかを話し合い、その実現に向けて冷静に意見交換できる場を作ることが私の役目です」と語っています。
アメリカにおける共同監護制度と離婚前の親への教育支援
アメリカでは、婚姻の有無に関わらず、親には子どもを養育する義務と権利があるという考え方が広く受け入れられており、「共同監護(joint custody)」制度として定着しています。関西学院大学の山口亮子教授(家族法)によれば、この共同監護制度は州法で規定されており、その象徴とも言えるのが、離婚時に裁判所へ提出が義務付けられている「養育計画書」です。子どもがどちらの親の家から学校に通うか、祝日や誕生日の過ごし方、課外活動の費用負担割合など、教育や医療に関する詳細事項も具体的に記載されます。
さらに、離婚前には親への教育支援も充実しており、未成年の子どもがいる場合、離婚が子どもに与える影響について学ぶプログラムの受講が多くの州で裁判所によって義務付けられています。対立が深刻な場合は、医療や法律の専門家の支援を受け、養育計画書の作成を共に行う例も見られるといいます。山口教授は「裁判所が全てを負うのではなく、専門機関に委託している点が特徴です」と指摘します。
家庭内暴力(DV)への対応はアメリカにおいても課題とされています。DV保護機関が裁判手続きを支援し、被害者が裁判所に申し立てを行うと、加害者の監護権が制限されるとともに、養育費や生活費の支払いが命じられることが一般的です。また、加害者が矯正プログラムを受講しなければ、面会交流が制限されることもあります。
山口教授は、「アメリカでは裁判所とDV保護機関が連携して迅速な対応を行っていますが、DVに関する判断を行う裁判官への教育が不十分であるとの指摘も依然として続いています」と述べています。
日本における共同親権導入の課題とDVリスクへの対応
日本では、離婚後の親権を父母のどちらか一方が持つ制度が長らく続いていましたが、2026年までに施行される改正民法により、離婚後も双方が親権を持つことが可能となります。父母のどちらかが単独親権を主張した場合、家庭裁判所が単独か共同かを判断することとなり、共同親権の下での子どもに関する意見の対立も裁判所が判断する場面が増えるため、家庭裁判所の体制強化が今後の重要な課題とされています。
国会審議では、離婚後もDVや虐待が継続する懸念が示され、隠れた被害をどう防ぎ、リスクをどのように判断するかが家庭裁判所の重要な役割とされました。国会で意見を述べた有識者は、家裁の「人的・物的な強化」に対する予算措置が不可欠であると指摘しています。また、付帯決議には被害者保護に加えて、加害者向けのプログラム推進も盛り込まれました。
共同親権の下でも、日常的な食事など「日常の行為」や急を要する「急迫の事情」がある場合には、一方の親が判断を下せるようになっています。国会では、「日常の行為」や「急迫」に該当するケースの明確化が求められ、関係省庁は具体例を示しつつ周知を図る方針です。
さらに、離婚後の子育てを円滑にするために、約9割を占める協議離婚の見直しを求める声もあります。欧州では当事者同士の協議離婚を認めず、裁判所の関与を必須とする国が多く、京都大学の西谷祐子教授は「日本でも『役所に届け出さえすればよい』という認識を見直すべきだ」と指摘し、養育費や面会交流について離婚前に取り決める支援が行政から提供されるべきだと提言しています。
山口教授は、日本における「共同親権」導入を親の離婚と子どもとの関係を切り離して考える「子どもファーストの視点への意識改革の一歩」と評価し、子どもの権利確保の「第一歩」と述べています。また、米国での共同監護制度における養育計画書の普及事例を参考に、日本でも運用に必要な人的資源や予算を確保するための取り組みが不可欠であると提言しています。
インドとトルコにおける単独親権制度と各国の共同親権の実情
政府は2020年に主要20カ国・地域(G20)を含む24カ国を対象に調査を行い、海外の親権制度に関する結果を発表しました。その中で、離婚後に単独親権のみを認めている国はインドとトルコのみであることが明らかになりました。
共同親権を導入している国々でも、制度の運用には違いがあります。たとえば、ドイツやイタリアでは共同親権が原則とされていますが、韓国やスペインでは父母の協議により単独親権を選択できる仕組みです。また、共同親権を持つ父母間で意見が対立した際に、裁判所が判断する点は多くの国で共通しています。