定義があいまい・・・「不適切保育」って?

キッズパーク豆知識

「不適切な保育に関する事案が明らかになりました」
4歳の娘が通っている保育園の保護者用アプリを開いたところ、驚くような内容が目に飛び込んできました。
その保育士は既に退職しているとのことでしたが、それは娘が最も信頼し、慕っていた担任の先生でした。
(※2024年8月28日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

不適切保育の意外な真相

近年、不適切保育が大きく報じられることが増えています。暴言や暴力、ネグレクト、さらには性加害といった悪い事例が思い浮かびます。しかし、園からの説明を聞いたとき、別の意味で驚かされました。
園児が元気に遊んでいる最中、危険を防ごうとして止めた際に、子どもがけがをしてしまったというのです。この件に関連して過去の保育事例を調べたところ、けがはなかったものの、同じように危険回避や誘導中に子どもがバランスを崩した事例が2件あったことがわかりました。
正直なところ、私にはその程度で不適切とされるのか?というのが率直な感想でした。

子どもへの対応と不適切保育の境界

確かに、子どもがけがを負ったことは問題です。しかし、悪意があったわけでも、恒常的に繰り返されていたわけでもないようです。
私自身、親としてはしゃぐ我が子に手を焼く場面は何度も経験しています。突然走り出そうとするのを引き止めたこともあれば、ぐずる子どもを無理やり抱きかかえて移動させたこともありました。
園からの説明に不安を感じ、自治体にも確認しましたが、認識されている事案は園からの説明と同様でした。しかし、自治体の担当者は「不適切保育に該当する可能性があるため、現在調査中です」と述べています。
悪意の有無にかかわらず、子どもへの対応が強制的だったことが問題視されており、そのような行動を避けるための配慮が、園内で日常的に行われていたかどうかを確認しているとのことでした。

不適切保育の定義と個人責任の問題

この問題に関して、保育研究所の所長であり、認可保育園の運営者でもある村山祐一・帝京大学元教授(保育学)は、「虐待のような事案を除けば、不適切保育の定義自体があいまいだ」と指摘しています。
昨年、こども家庭庁が発表した「不適切な保育」に関する初の実態調査によると、市町村が「不適切保育の疑いあり」として確認した全国の認可保育所の事例は1492件、そのうち914件が「不適切」と認定されました。さらに、そのうち「虐待」と認定されたのは90件です。不適切保育に関する回答数は園ごとに大きな差があり、0件と回答した保育所が73%である一方、500件以上の事例を報告した施設もありました。何を「不適切」とするかの基準は大きく異なっています。
また、子どもは予測できない行動を取ることが多く、保育士は多くの子どもを同時に見守る必要があります。国の基準では、例えば3歳児クラスでは保育士1人に対して20人の子どもを担当することが定められています。村山さんは、「極端に言えば、子どもがけがをすれば不適切、叱っても不適切、放置しても不適切で、どの園にも不適切保育の可能性があります。それにもかかわらず、保育士個人の責任が追及されることが多いのは疑問です」と述べています。

疲弊する保育現場と求められる適切な対策

村山さんが問題の根本にあると考えているのは、疲弊している保育現場の状況です。慢性的な保育士不足に加え、共働き家庭の増加や働き方の多様化に伴い、さまざまな保育ニーズが高まっています。そのため、多くの保育園では、ローテーション勤務で早朝保育や延長保育、土曜保育に対応しているのが現状です。「昔と比べて現場には余裕がなく、全員が集まって話し合う時間もなかなか取れない状況です。そんな中で『不適切』を追及し、精神論でより良い保育を求め続ければ、保育士の志望者はさらに減少し、保育士不足はますます深刻化する」と彼は危惧しています。
今年1月時点の保育士の有効求人倍率は全国で3.54倍に達しており、全職種平均の1.35倍を大きく上回るほど、保育士不足は顕著です。
私の娘が通う保育園では、問題発生後、クラスの保育士が増員されました。娘は変わらず元気に通っていますが、今もなお、退職した保育士の先生を慕っています。
私自身、信頼していた先生がいなくなったことで、この状況が本当に「適切」なのか、一保護者としては今でも疑問を感じ、心の中でモヤモヤとした気持ちを抱えています。