「育休=休みじゃない!」産後離婚が減らない現代

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産後離婚がなぜ減らないのかについて、著書「夫婦のミゾが埋まらない」などで知られ、2012年から産後の育児・家事をサポートする事業「ままのわ」を展開しているアイナロハ代表の渡辺大地さん(43)にお話を伺いました。
(※2024年4月2日(火)・4日(木)朝日新聞朝刊の記事を参考に要約しています。)

産後の離婚危機を乗り越えた私たちの話し合いの時間

――現在は3児の父であるご自身も、離婚の危機があったそうですね。
第1子が生まれて6カ月くらいのとき、突然妻に「話がある」と言われました。夫婦で話をする時間をつくりたい。それができなければ、夫婦を続けることは難しいと思う、と。

驚きました。当時、私は出版社に勤めていましたが、妻とは毎日会話をしており、育児もわりとやっているつもりでした。しかし、妻が言うには、確かに子どもの話は聞いているが、妻自身が一日どう過ごしていたかには関心がないというのです。毎日気持ちの浮き沈みがあり、体調も日々変わっていく。それをちゃんと聞いて欲しいと。それを理解してもらえるなら、今後も夫婦でいられるけれど、と。

「ええー」と思いましたが、週に1回、日曜日の夜に1時間だけと決めて話し合う時間をつくることにしました。

――どんなことを話していたのですか。
話題はその時々で、何気ないテーマも大切に、子ども以外のことを話しました。毎回、終わるときに次に話すテーマを決めていました。

これを始めたからといって、妻の大変さを完全に理解したわけではありません。ただ、妻が日ごろイライラしているとき、その理由を想像できるようになりました。そして、一つのことでも、考え方や言葉の定義が夫婦で全然違うことが分かってきました。

家事支援を拒む夫たちへの挑戦

――育児の大変さを知ったのはいつでしょうか。
第2子の妊娠中、妻が数カ月間緊急入院することになりました。長男が2歳のときです。育児と家事をすべて自分でやるという状況になって初めて、「ああ、こんなに大変なことをやっていたんだな」と思い知りました。義母の助けがなかったら、たぶん回らなかったと思います。

――この経験が、事業を始めるきっかけになったのですか?
退院後に妻と話し合い、産前産後をサポートする会社を立ち上げました。最初は何でも屋から始まり、徐々に、産後の母親の回復のために絶対必要な家事サポートに収斂していきました。一番多いリクエストは、夜ごはんをつくること。それから沐浴の補助、母親が休む間子どもを抱っこしたり見守ったりする、といった内容のサポートを行っています。

――ニーズはどうでしょうか。
事業を始めた当初は、なかなか申し込みがありませんでした。でも、事務所にはがんがん問い合わせの電話がかかってきました。内容を聞くと、妻たちが「私は利用したいが夫がダメだという」「夫を説得してほしい」と言うのです。休んで家に居るのだから家事は全部お前がやれとか、家事にお金を払うなど何事か、と夫が許可しないというのです。

ああ、そうかと。僕自身も、最初は分かっていませんでしたから。そこで、父親も対象にした両親学級を始めました。

両親学級での気づき

――両親学級ではどのようなことをするのでしょうか。
まず、産休や育休の必要性を理解してもらうために、産後の女性の体の回復について話します。出産後1週間入院して帰宅した妻を「もと通り」だと思いがちですが、産後の女性の体は「重症のけが人」のようなものです。傷ついた体を回復させるために休む必要があることを伝えます。

次に、夫婦の考え方が違うことに気づいてもらうワークショップを行います。例えば、我が家では「通勤時間」を、私は「仕事の一部」と考えていて、妻は「好きなことができる自由時間」と考えていました。このように、一つの言葉の理解でもこれほど違いがあることに気づいてもらいます。

両親学級の狙いは、それをきっかけに夫婦で話し合う時間をつくってもらうことです。「パートナーに感謝をする」ときも、方法や考え方が相手の認識と違っていると、感謝の気持ちが伝わらないことがあります。考え方が違うことを知り、話し合うことが重要です。まずはそこから始めます。

 

長廣百合子さん、11回目のプロポーズで結婚を決意

長廣百合子さん(40)が、遥(よう)さん(47)の11回目のプロポーズを受け入れたのは29歳のときでした。大学卒業後、大手人材会社に就職し、その後独立して若手人材の育成のための事業を立ち上げました。彼女は「超」がつくほどのワーカホリックでしたが、遥さんの粘り強いアプローチにより結婚を決意しました。

地域活性化のコンサルティング会社に勤めていた遥さんには離婚歴があり、「一家だんらん」する家庭をつくることが夢でした。

妊娠と不穏な空気の始まり

すぐに第1子を授かった百合子さんは、個人事業主であるため、産休・育休を取るとその間の収入が絶たれます。
「産後2カ月くらいで仕事を始めようかな」
ある日、百合子さんがこうつぶやくと、遥さんは諭すように言いました。「無理じゃない。体も心配だし、やめとこうよ」
その瞬間、百合子さんは誰も味方がいないような寂しさに襲われました。
「私の自由な想像の翼を奪わないでよ」。泣きながら怒りをぶつけました。
結婚してしばらくは、周囲が引くほど仲が良かったのに、この頃から、2人の間に不穏な空気が漂うようになりました。

2014年5月、長女が生まれました。百合子さんは睡眠不足もあり、常にカリカリして体が休まりませんでした。一日中パジャマ姿で過ごし、娘が泣いていても体が動かない。児童虐待のニュースを見るたびに、「私もこうなるんじゃないか」と追い詰められました。

忙しい仕事と募る孤独感

遥さんは仕事が忙しく、出張が続いていました。たまに帰宅しても、いつも午前0時過ぎ。次第に会話は減り、百合子さんの孤独感は募っていきました。「週に2回は午後7時に帰り、育児を担う」という約束も、守れないことがたびたびありました。

「結婚するとき、『一家だんらんしたい』と言ったのはあなたじゃない」。抑えていた思いが爆発し、「離婚」の文字が頭をちらつきました。

実は遥さんも、仕事と家庭の板挟みにあい追い詰められていました。重圧からか、仕事で大きなミスをして、大クレームを受けていたのです。

長女が生後10カ月を迎えたある夜のことでした。「家庭も仕事も大切にしたいのに、できない。収入がなくなるから仕事はやめられない」。遥さんは、そう言いながら号泣しました。

家庭を重視した働き方へ

百合子さんは本気で離婚を考えていました。しかし、改めて遥さんの思いを知り、「この人と育児をしたいんだ」と思い直しました。
「もっと家庭にシフトした働き方に変えよう。私だって仕事をしたいし、一人で稼がなきゃと背負わなくていい」と決意しました。
遥さんも、自分を見つめ直しました。気づけば、帰宅しても「今日、百合子はどうだった?」と尋ねることはありませんでした。

このとき初めて、夫婦としての「対話」ができた気がしました。その後も話し合いを重ねる中で、遥さんは離職を決断しました。

2015年7月、2人で起業し、「ロジスタ」という子育て支援の会社を立ち上げました。夫婦の対話を深めるためのメソッド「夫婦会議」を2人で考案し、専用のノートを開発しました。各地で講座を開きながら、夫婦と子どもにとって良い家庭をつくるための方法を広めています。

生活スタイルが激変する産後は、特に対話が重要な時期です。しかし、忙しさの中でその時間も減り、重要な話は「臭いものに蓋」をするようになりかねません。でも、夫婦が円満でなければ、良い家庭も良い仕事も生まれません。

百合子さんは、「対話できる関係があれば、どんな危機も乗り越えられる」と考えています。現在、夫婦の関係で困っていることは、「何もない」ということです。

会話時間と夫婦仲の関係:「円満」夫婦は平日で145分会話

きちんと会話をしている夫婦ほど仲が良い――。明治安田生命が昨年行ったアンケートで、そんな傾向が明らかになりました。

20~79歳の既婚男女約1600人を対象に夫婦の会話時間を尋ねたところ、「夫婦仲が円満」と回答した人の平日の会話時間は145分でした。一方、「夫婦仲が円満でない」という人の会話時間は41分にとどまりました。

子どものいない夫婦では平日の会話時間が149分なのに対し、子どものいる夫婦では118分と短い傾向にありました。年代別に見ると、20代では平均142分ですが、30代で112分、40代で97分と徐々に短くなり、50代以降は再び延びる傾向にありました。