子どもの運動離れ、思いのほか深刻な状況?

キッズパーク豆知識

遊びのような運動も含めて、体をほとんど動かさない子どもや、スポーツをしない子どもが増え続けております。新型コロナウイルスの感染対策による行動制限がなくなった後も、その傾向は続いております。各種調査や、対策を始めた地域から見えてくるものを探ってみました。
(※2024年5月5日(日)朝日新聞朝刊の記事を参考に要約しています。)

競争意識をさせずに成果を発揮、宮城県角田市では

宮城県角田市は、小学校入学前の子どもたちに遊ぶ習慣を身につけてもらおうと力を入れております。この取り組みのきっかけは、スポーツを核とした交流人口を増やそうとしたことでした。課題を洗い出す過程で、体を動かす機会が減少し、運動する子どもとしない子どもが「二極化」していることがわかりました。現場の保育士たちからも「遊ばない子が増えた」という声が多く上がりました。

そこで、2019年に市スポーツ協会などが「スポーツネットワークかくだ」(スポネットかくだ)を設立し、翌年から「かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラム」に取り組んでおります。このプログラムは三つの要素から成り、特に注目されているのは、5カ所の保育園や幼稚園などに通う子どもたちを対象とした講座です。各園で年3回開かれ、競争をなるべく意識しない遊びを行います。例えば、「鬼ごっこ」ではなく、自分のしっぽを取られてもコート外のしっぽを回収して再び加われる「しっぽ取り」を行います。しっぽを取られても終わりではないため、運動が苦手な子どもも楽しめます。

中島保育所の菅野喜代美保育士によると、講座の日を「休みたくない」と話す子が増えたということです。「他人と争う遊びよりも、達成感を得られるからだと思います」と語っています。

宮城県角田市、プログラムの成果と今後の課題

保護者アンケートによると、「体を動かして遊ぶようになった」と回答した割合は、2020年度(94人回答)の13.8%から2022年度(206人回答)には19.9%へと増加しました。プログラムは今年で5年目となります。「スポネットかくだ」の遠藤良則・地域スポーツ推進マネジャーは、「市内の園などが垣根なく参加し、横のつながりができた」と述べています。

課題として、子どもたちが小学生になった後も、スポーツに親しみ続けるかどうかが挙げられます。遠藤マネジャーは、「中学校の部活動の地域移行が進む中、その前の段階で子どもがスポーツとどう関わりを持てるか、データを残しながら取り組んでいきたい」と話しています。

コロナ後も続く運動離れ:生活習慣の変化が定着か

子どものスポーツ・運動離れについて、笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所の宮本幸子政策ディレクターは「じわじわと進んでいると感じる」と述べています。

財団は、4~11歳の運動・スポーツ実施頻度の推移をまとめています。この調査には、ドッジボール、ダンス、おにごっこ、自転車遊び、ブランコなどの遊びも含まれています。

この10年間で、1年間に1回もしなかった「非実施群」や、1回以上週3回未満の「低頻度群」の割合は共に微増しています。一方、週7回以上実施する「高頻度群」は減少しており、特に女子でその傾向が顕著です。

コロナ禍明けの2023年の調査では、高頻度群の増加が認められず、むしろコロナ下で体を動かさなくなった生活習慣が定着した可能性がうかがえます。幼児への調査では、半数が平日に幼稚園・保育園以外での外遊びをしておらず、12人に1人は1週間のうち1日も園外の外遊びをしていませんでした。

多様な運動経験が失われる・・・その背景とは

宮本さんは「公園でのボール遊びの禁止やスクリーンタイムの増加などに伴い、多様なスポーツや運動経験がなくなってきています。時間、空間、仲間の三つの『間』が減り、自然発生的に体を動かす機会が減っている」と分析しています。

背景には、生活習慣自体の変化のほか、両親の共働きや経済的理由も考えられます。調査には「苦手な子でも体を動かせるスポーツがあったら」「学業優先になってしまった」「スポーツに積極的にとは考えていない」といった保護者の声が寄せられました。

運動習慣の喪失は健康リスクにつながります。宮本さんは「大人の側が、スポーツや運動をする機会や環境を提供することが求められています」と述べています。

若者のスポーツ離れ:年に一度も授業以外でスポーツしない10代が増加

運動遊びやスポーツをしない子どもの割合は、30年ほど前から増加傾向にあります。総務省の社会生活基本調査によると、年に1日でもスポーツをしたと答えた10~14歳の割合(行動者率)は、1996年には97.3%でしたが、2021年には86.3%と11.0ポイント減少しました。15~19歳では、1986年の93.6%から2021年には76.8%に減少しています。

2021年のデータによると、10代前半の推定人口約534万人のうち約73万人が、10代後半の推定人口約555万人のうち約129万人が、授業以外で1年間にほぼスポーツをしなかったことになります。コロナ禍前の2016年調査では、10代前半の約54万人、10代後半の約120万人がスポーツをしていませんでした。

スポーツ離れと学習傾向の増加:子どもの行動変化

スポーツの種目ごとの行動者率は、水泳(遊びのプールや海水浴を含む)、野球(キャッチボールを含む)、ソフトボールなどで減少傾向が続いています。サッカー(フットサルを含む)やバスケットボールは、漫画やプロの影響で流行した1980年代や90年代の行動者率が2000年代よりおおむね高いです。年に1日でも活動すれば行動者に数えられることを考えると、遊びの中でスポーツをする子どもが減っていることがうかがえます。

一方で、全体的に増えていたのは、学習や自己啓発などの活動に取り組んだ子どもの割合です。こうした調査結果について、総務省統計局の担当者は「近年は新型コロナウイルスの影響も考えられますが、スポーツに励むよりも、将来を見据えて学習や自己啓発に向かう子どもが増えている傾向があるかもしれません」と述べています。

社会生活基本調査:国民の活動状況を把握する統計

社会生活基本調査は、国民がどのような活動を行ったかを把握するための統計です。スポーツや自己啓発などを1年間で行ったかどうかやその頻度などを尋ねています。調査には学校の授業は含まれず、昼休みや部活動など放課後の活動は含まれます。スポーツには、運動を伴う遊び、散歩、釣りも含まれます。行動者率は、人口に占める何らかの活動を行った人の割合を示します。この調査には、趣味やボランティアなどの統計も含まれています。

スポーツ少年少女の減少と習い事の変化

子どもの習い事の定番である水泳に変化が見られます。日本水泳連盟の丸笹公一郎常務理事は、以前より短期間で水泳をやめる子どもが増えていると感じています。これまでは、習い始めると4年ほどかけて4泳法を覚えるまで続けていましたが、近年は1、2年でクロールを身につけるとやめる子どもが多くなっています。丸笹常務理事は、「習い事の掛け持ちが増えた半面、選別も進んでいる。いかに水泳を続けてもらうかが課題だ」と述べています。

日本スポーツ協会(JSPO)によると、1962年創設のスポーツ少年団の登録者数は、1986年の約112万人をピークに減少し、現在は約54万人と半減しています。この減少率は少子化のペースを上回っています。

減少に歯止めをかけるため、JSPOは「勝利至上主義を否定し、運動(遊び)から得られる『楽しさ』をジュニア、ユースに提供する」という方向性を打ち出しました。「親がスポーツで楽しい経験をしていれば、その子にもスポーツを勧めるかもしれない」と述べ、好循環を生むための改革を進めています。

日本バレーボール協会の担当者は、「バレーだけ減っているわけではないので、もっと大きな問題だと思う」と述べています。バレーボールに親しむ子どもの割合は2011年ごろに下げ止まり、その後は増加傾向にあります。協会は認知度向上に力を入れており、昨年の石川祐希ら代表選手たちのテレビ出演本数は前年の4倍ほどに増加しました。選手たち個人にもSNSを通じて積極的に発信することを推奨しています。