見落とさないで欲しい!「名もなき家事」
キッズパーク豆知識
2025.11.07
料理の準備や部屋の掃除、洗濯など、家庭内でこなすべき作業は数えきれないほどあります。
その一方で、トイレットペーパーの交換のような小さな手間は目立ちにくく、担当する側が知らず知らずのうちにストレスを感じることもあるようです。
こうした「名前のない家事」について、最近では平等に分担しようという意識が高まっています。
あなたが普段あまり意識していない家事には、どのようなものがありますか?
(※2025年7月5日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
見えない努力を陰で支える手・・・主に女性
日常生活の中で、誰かがひっそりと行っている家の作業があります。
とりわけ目立つことはなく、誇らしげに語られることもありませんが、確かに誰かの手によって支えられているのです。
調査で上位に挙がった作業は、どれも日々の食事に関わる場所で行われているものでした。
1位となったのは「キッチンの壁に飛び散った油汚れの拭き取り」でした。
滋賀県に住む74歳の女性は、白内障の手術を終えて自宅に戻った際、壁の汚れのひどさに驚き、すぐに掃除を始めたと話します。
「ガスコンロの裏は掃除していたのに、壁の汚れには気づかなかった」と残念そうな様子でした。
神奈川県の67歳の男性も「年末の掃除で洗剤を使って拭いたら、見違えるほどきれいになって驚いた」と話しており、普段は見過ごされやすい場所であることがうかがえます。
2位に選ばれたのは「シンクと排水口の掃除」です。
自由記述からは、これを主に女性が担当している傾向が見受けられました。
大阪府の71歳の男性は「料理は自分が担当しているが、シンクの掃除は妻に任せきりです」と語ります。
秋田県の68歳の女性は「体調を崩して寝込んでいると、普段はピカピカのシンクが水あかで汚れ、排水口もぬめりが出てくるので、回復次第すぐ掃除します」と話しています。
3位には「ガスコンロと五徳の掃除」が入りました。
東京の80歳の男性は「お風呂掃除とあわせて、定年後の毎日の仕事の一つになっています」と語り、三重県の62歳の女性は「気づいていても、細かい作業はつい後回しにしてしまいます」と本音をこぼします。
4位に入ったのは「洗濯機のフィルター掃除」でした。
埼玉県の54歳の女性は「母に『ゴミ取っておいてね』と頼まれるのですが、うっかり忘れてしまうことが多いんです」と話しており、こちらも見落としやすい作業の一つのようです。
「名もなき家事」が問いかける日常の風景は
「『名もなき家事』という言葉を初めて知りました」という感想が、今回いくつも寄せられました。
朝日新聞の過去記事を調べてみると、この表現が最初に登場したのは、2018年6月の全国版「声」の欄だったようです。
投稿者は、当時49歳の共働きの男性で、3人の子どもを育てていました。
新聞の折り込み広告をまとめていた妻に対し、「そんなの自分も気がついたらやってるよ」と軽く言ったところ、強く反発されたといいます。
その後、妻からは50項目を超える「名もなき家事」のリストを手渡され、自ら実践していったそうです。
「炊事や洗濯、掃除のように明確なタスクではなく、目につかない地道な作業の積み重ね」だと、初めてその意味を理解したと語っています。
一方で、このテーマそのものに違和感を覚えるという声もありました。
京都に住む42歳の女性は、「『名もなき家事』という呼び方はどうしても好きになれません。
特別扱いするようで、でも実際は生活していく上で当然のこと。
誰かがやるだけの話です」と疑問を呈しています。
長年、日本では家庭内の多くの作業を女性が無言で担ってきました。
茨城県の80歳の男性は、2年前に妻を亡くした後、「亡くなって半日が過ぎた頃、ふと食卓を見ると茶わんがそのまま残っていたんです。
最初は何が変なのか気づけませんでした。
でも、自分で片づけない限り、そこに茶わんが置かれ続けるということにハッとしました」と語ります。
日々のさりげない家事こそが、亡き妻の存在を最も感じさせるものだったといいます。
日常の家事のスキルと感覚がすれ違う・・・
家の中の作業に対する理解や手際の良さは、人それぞれに差があります。
愛媛県在住の80歳の男性は、「妻は使ったタオルを洗濯には出すものの、新しいものを掛けておくといった準備ができません。冷蔵庫のビールが切れても補充しないので、何度伝えても改善されず困っています」と話します。
こうした家事への関わり方の違いは、長年にわたって夫婦の間に小さな摩擦を生んできました。
千葉県の79歳の女性は、「結婚して50年以上たつ夫は、電池や蛍光灯の交換すら一度もやったことがありません。玄関のチャイムが鳴らないことに腹を立てて怒鳴っている姿には、本当に呆れてしまいました」と語ります。
一方、埼玉県の81歳の男性は、「妻が完璧主義で、すべて自分でやらないと気が済まないタイプだったため、自分は家事にまったく手を出せず、料理もできないまま今日に至りました。ケンカになるたびに『何もしない』と責められてきました」と胸の内を明かしています。
今では共働き家庭や単身世帯が増えたことで、誰もが家庭内の細かい作業と向き合うようになりました。
「洗濯槽のカビ取り」が5位に入ったことについて、東京都の78歳の女性は「20年前に買った洗濯機を業者に掃除してもらったら、新品のようになりました。費用は2万円でしたが、それだけの価値はあると思いました」と話し、プロの手を借りるメリットを実感しています。
アンケートに回答した岐阜県の54歳の女性は、「今まで自分がやっていたことが家事だと意識していなかったんです。中には『本当は自分がやるべきことだったのかな?』と気づかされる内容もあり、思わず笑ってしまいました」とコメントしています。
こうした小さな家の作業こそが、暮らしの快適さを左右する「名もなき家事」なのかもしれません。
「家族に『これ、やってないね』と指摘されたら、『じゃあ、あなたがやってみたら?』と返すようにしています」と語る言葉には、日々の奮闘と少しのユーモアがにじんでいます。
大切なのは家事の「その先」を見据える視点
名もなき家事の重要性を実感するようになったのは、今から約10年前のある出来事がきっかけです。
担当記者(56歳)は、購入から約3年で洗濯機が突然故障し、修理業者から「糸くずフィルターの手入れを怠ったことが原因です」と指摘を受けました。
それ以降、洗濯のたびに必ず糸くずを取り除く習慣がつき、現在もその洗濯機は問題なく使えています。
かつては、家事といえば女性の役割とされ、母への贈り物といえばエプロンが定番だった時代もありました。
「当時はそれが当然とされる社会的な価値観でした」と語るのは、「日本で唯一の家事シェア研究家」として活動する三木智有さん(45歳)です。
三木さんは全国の自治体から講演依頼を受け、男女共同参画の推進に取り組んでいます。
著書『家族全員自分で動く チーム家事』では、誰か1人に負担が偏らないよう、子どもも含めて家族全体で協力する仕組みの大切さを説いています。
ただし、三木さんは高齢のご夫婦には「無理に家事分担を求めない」ことを勧めています。
「長年かけて築いてきた夫婦の役割分担を急に変えるのは、お互いにとって負担になりやすい」と話し、妻が夫を見守りつつ、自立できるように少しずつ促す方法を提案しています。
とはいえ、「名もなき家事」を特定の誰かがずっと抱え込むのは、現代の生活スタイルにはそぐわないものです。
三木さんは、「家事という作業を、“次の瞬間”や“次に使う人”のための準備と考えることで、家族の中で価値観を共有しやすくなります」と話します。
例えば、食器を洗ったあと、水切りかごに置くだけで完了とするのか、それとも水分を拭いて棚に戻すところまで行うのか。
洗濯物も、「たたまずにしわが寄っていても気にならない」という共通認識があれば、無理にたたむ必要はありません。
こうした視点の持ち方こそが、家事をよりスムーズに、そして誰もが関われるものに変えていくヒントになるのかもしれません。
なるほど、と思わずうなずいてしまう提案です。