発達障害児の偏食、根気よく原因を探そう

キッズパーク豆知識

食べ物の好みは誰にでもあります。
特に幼い子どもが野菜を苦手とするのは珍しいことではありません。
ですが、中にはそれとは比較にならないほど強い偏食を示す場合があります。
発達障害を持つ子や低出生体重児の中には、白ご飯しか食べない、ミルクしか受け付けないなど、特定の食品しか口にできない子もいます。
このようなケースは自然に改善することが少なく、相談先を変えても解決に至らないことがあります。
こうしたとき、全国各地の栄養士や保育士などから「最後の頼みの場」として相談や講演の依頼が寄せられます。
現場では食事の様子を観察し、丁寧なヒアリングを行って原因を探ります。
さらに栄養価を計算し、成長曲線と照らし合わせながら適切な栄養バランスを検討し、調理方法についても助言します。
(※2025年6月14日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

偏食と向き合い20年、試行錯誤から生まれた食事支援の工夫

今から約20年前、広島の療育施設で勤務していたときのことです。
病気や障害を持ち、その施設に通う約70人の子どもたちの多くが、食事に関して大きな困難を抱えていました。
昼食の時間になると、下を向いたりカーテンの陰に隠れたりする姿が目立ちました。
先生たちが一口でも苦手な食べ物を食べさせようとすると、泣き叫ぶ子もいました。
「この献立は難しい」と先生に言われることもありました。
さらに、食べてもらえない苛立ちから、子どもに手を上げてしまう保護者もいました。親も子も、表情は沈んでいました。

「どうしたらいいのだろう」
食事を作り終えて教室に行くたびに、先生や保護者からの冷たい視線を感じ、胃が痛くなる日々でした。
調理方法を工夫し、事例を調べても、決定的な解決策は見つかりませんでした。

そんなある日、白ご飯しか食べなかった男の子が、揚げ物の端をかじっているのを見かけました。
「揚げ物なら食べられるのでは?」と思い立ち、ワカメやサニーレタス、キュウリなど、あらゆる食材を揚げてみました。
他の子にも試すと、それまで手をつけなかった食材を食べられるようになり、やがて焼く・煮るといった調理法でも口にできる子が増えていきました。
子どもによって苦手なのは食感や色、見た目など様々で、失敗を繰り返しながら、実例を基にチェックポイントや対応手順を細かく体系化し、独自の方法を編み出しました。

2年前に施設を退職し、現在は歯科医院や福祉施設で、子どもから高齢者まで、障害の有無を問わず食事の相談を受けています。
偏食は健康面への影響だけでなく、周囲からの非難により「心を傷つける」こともあります。
1日3回の食事がつらい時間とならないようにすることが大切です。
今後は、これまでに培った改善技術を若い管理栄養士へ伝えることを目標に活動を続けていきます。

偏食改善の道筋。小さな一歩が心の回復にもつながる

―「食べられないと心が傷つく」という言葉が印象的です。
自分だけが食べられない状況は、自己肯定感の低下につながります。
褒められる機会も減ってしまいますよね。
保護者の方も、せっかく作った料理を口にしてもらえない、食べないと分かっていても出し続けなければならないというつらさを抱えています。
食べられる食品の種類が増えると、お子さんが空になったお皿を見せに来てくれることがあります。
そのときの表情は明るく、食事以外の日常生活や人間関係にも前向きな変化が見られるようになります。

―改善策はどのように見つけたのですか。
諦めずに何度も試すうちに、偶然うまくいく方法を発見することがありました。
自分でも「しつこい性格」だと思います(笑)。
改善までに3年かかるお子さんもいれば、1年ほどで大きく食べられる種類が増えるお子さんもいます。
原因はさまざまで、かみにくい・飲み込みづらいといった口腔機能の課題、汁物やスプーンが苦手といった感覚特性、複数の要因が絡み合うこともあります。
調理法の工夫に加え、食材を分けて盛り付けたり、カードで見た目と名前を覚えてもらったりしながら、少しずつステップアップを目指します。
保護者の協力も欠かせません。

―具体的にはどのような方法ですか。
例えば、ごはんを食べない場合、ついおやつで補ったり、泣かれて根負けして好きな物を与えてしまうことがあります。
しかしそれが続くと、子どもが「泣けば好きな物がもらえる」と学習してしまう恐れがあります。
中には、白米を1食で300グラム食べる子や、牛乳を1日に1リットル飲む子もいました。
食への関心がないのではなく、少量で高カロリーな食品を摂って満足してしまっているケースもあります。

―それでは悪循環ですね。
泣かれても遊びなどで気をそらしつつ、1日3食を決まった時間に少しずつ食べる習慣をつけます。
そして体重の変化を確認しながら、20グラムや30cc単位で摂取過多の食品を減らしていきます。

偏食の影響を正しく理解するために

―有名なスポーツ選手や芸能人が自身の偏食を公表し、「偏食でもいいのでは」という意見もあります。
確かに、日常生活に支障がなければ大きな問題にならない場合もあります。
しかし、症状が進行すると栄養バランスが崩れて入院が必要になったり、肥満によって外出を避けるようになったりすることがあります。
さらに、食事の際に嫌な経験を繰り返すことで、かえって食べられる食品の種類が減ってしまうこともあります。
そのため、偏食がもたらす不利益について正しく知ることが大切です。

―偏食は「わがまま」と見られがちですね。
「食べられない」という状態は、単なるわがままとは異なります。
以前、6歳の女の子が相談に来られたことがありました。
その子は哺乳瓶のミルクとせんべいしか口にできなかったのです。地図が好きな子だったので、「これは北海道で収穫されたジャガイモだよ」と話しながら、親御さんに揚げたポテトを食べてもらい、地図で場所を示して「食べたら日付入りの表にシールを貼ろう」と提案しました。
すると、その会話を隣で聞いていた本人が、自らポテトを口にしてシールを貼ったのです。

ただ、その際に時折「オェッ」となりながら食べていました。
飲み込むタイミングが分からなかったようで、「10回かんでから飲み込んでね」と教えると、徐々にスムーズに食べられるようになりました。

また、噛む力に課題がある場合も様々です。
噛むことはできてもすりつぶしが難しい、硬い物は大丈夫でも柔らかい物は苦手など、状況に応じた対応が必要です。