子どもの問題行動、小学生に増加傾向?

キッズパーク豆知識

2023年度において、全国の小中学校および高校で報告された児童の暴力行為の件数は過去最多の108,987件に達しました。
中でも小学校における件数は約70,000件にのぼり、1,000人あたりの割合でも中学校や高校を上回っています。
一部の専門家は「80,000件を超える日もそう遠くないかもしれない」と述べています。
(※2024年11月18日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

児童生徒の暴力行為に関する最新調査結果

文部科学省が実施した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」により、最新の状況が明らかになりました。この調査は、国公私立学校および各教育委員会を対象に毎年実施されており、本年度の結果は10月31日に公表されました。
調査によると、暴力行為とは「教師の衣服をつかむ」「生徒間のけんかによる殴り合い」「教室内で窓ガラスを故意に破損させる」など、学校内外で「自校の児童生徒が意図的に目に見える形で物理的な力を加えた行為」と定義されています。
校種別の報告件数は以下の通りです。小学校が70,009件(前年度比8,554件増)、中学校が33,617件(同3,918件増)、高校が5,361件(同1,089件増)となり、1,000人あたりの発生件数では小学校が11.5件(同1.6件増)で最も高く、中学校が10.4件(同1.2件増)、高校が1.7件(同0.4件増)と続いています。
また、暴力行為を起こした加害児童生徒の学年別人数では、中学1年生が14,917人で最多となり、次いで中学2年生の10,684人、小学4年生の9,120人となっています。
暴力行為件数の増加について、文部科学省は「いじめ認知件数の増加や、児童生徒の行動観察の精密化により把握件数が増えたことが要因として考えられる」と説明しています。

児童の暴力行為と教育現場が抱える課題とは

現場の教員からは、児童の暴力行為が増加している背景について、別の要因も指摘されています。
「暴れている!」という声が上がったのは10月下旬、給食の時間のことです。神奈川県の公立小学校に勤務する男性教諭(34)は、隣のクラスの児童から助けを求められました。教室には給食が散乱しており、余った牛乳を巡るトラブルで男児が怒り、暴れたとのことです。さらに11月には別の男児が友人を突き飛ばす出来事も発生しました。
このような暴力行為は「日常茶飯事」と化しており、教諭は共通して「気持ちを言葉で表現できていない」と感じています。感想文など言語的な表現が苦手な子どもが多い中、「言葉にできない感情が暴力となるが、教員も多忙で十分に話を聞けない。余裕があれば対応も違うだろう」と教諭は語ります。

相手の気持ちや視点が分からない?

東京都内の小学校に勤務する女性教諭(34)は、「児童は相手の視点を考える力が不足しているように思える」と述べています。特に新型コロナウイルスの影響で、物理的な距離が生まれたことが心理的な距離感を学ぶ機会の喪失につながったと考えられます。約3年前に担任を受け持ったクラスでは、毎日のように喧嘩が発生し、怒りのあまり机を投げる児童もいました。

明らかに対人スキルが落ちている?

別の都内小学校に勤務する女性教諭は、「子どもの対人スキルが低下し、深刻な暴力行為が増えている」と指摘します。スマートフォンに夢中になる子どもが増え、直接的な人間関係を経験する機会が減った影響が感じられるといいます。ふざけ半分で友人をカッターで傷つけたり、ちょっとした声かけに腹を立てて教員を蹴る児童も現れています。

ベテラン教員の大量退職も起因

さらに、大量採用期のベテラン教員が退職する傾向にあり、児童を冷静に対応できる経験豊富な教員が減少している現状も悪化の一因とされています。「児童の暴力行為は深刻化しつつあり、それに対応できる教員が不足している。悪循環が続いている」と教員は語っています。

コロナ禍の影響と小学生の暴力行為増加への懸念

白梅学園大学の増田修治教授(臨床教育学)は、小学生による暴力行為が「8万件を超える日も遠くない」と警鐘を鳴らしています。
増田教授が特に注目したのは、2019年度と2020年度の加害児童数の変化です。計上方法の違いから単純な比較は困難ですが、全体では約6.5%減少した一方で、1年生の加害児童は約13%増加しました。この全体的な減少については、新型コロナウイルスによる休校が影響した可能性があると指摘されています。
さらに増田教授は「言語力が低く、自分の思いを整理できない子どもほど、暴力に走る傾向が強い」と述べています。2021年度、増田教授が訪問したある小学校で2年生の授業を観察した際、クラスの半数がひらがなを習得できていない状況だったといいます。多くの学校は「長期休校により、ひらがな習得の重要な時期を逃した」と考えています。
こうした学力の遅れや言語力の不足が、暴力行為の背景として影響している可能性があると増田教授は指摘しています。

過密なカリキュラムと小学生の暴力行為の関係も

近年の過密なカリキュラムも、小学生の暴力行為の背景要因として指摘されています。子どもへの負担が増大する一方で、教員は子どもにじっくり考えさせる時間を確保できない状況に陥っています。その結果、十分な思考力が育たず、暴力を自制する力が欠如する可能性があると専門家は警告しています。
「カリキュラムの見直しを進め、子どもたちの思考力を育み、ゆっくりと成長できる時間を保障することで、暴力行為を減らすことができるのではないでしょうか。小学生の暴力は、心の中の『苦しい』という叫びそのものです。大人がこの現状を真摯に受け止め、変化を起こす必要があります」との声が上がっています。