増える医療的ケア児、サポート体制の充実を願う
ベビーシッター情報
2025.01.10
「ラララ、虹が虹が 空にかかる」「君の君の 心も晴れて」
埼玉県に住む14歳の寅二郎さんは、童謡「にじ」(新沢としひこ作詞)をとても気に入っています。
生まれつき脳に障害を持ち、さまざまな医療的ケアを必要とする寅二郎さんは、声を出して話すことはできませんが、この曲のサビが流れると肩を震わせて笑い、楽しそうな様子を見せてくれます。
訪問看護のスタッフが「とらちゃん」と親しげに声をかけると、寅二郎さんは笑顔を見せ、その笑顔に周りの人たちも自然と微笑み返します。
彼ができる限り痛みや苦しみを感じず、穏やかな日々を送ること――それが母親であるななえさんの最も大切な願いです。
しかし、彼が成長するにつれ、ななえさんの中で募る不安や孤独感はますます深まっているのです。
(※2024年10月17日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
転機とその後の日々とは
小学5年生の時、寅二郎さんにとって大きな転機が訪れました。肺炎を何度も繰り返し、肺機能が低下していたため、気管切開の手術を受けることになったのです。この手術では、喉に穴を開けて気管にカニューレと呼ばれる管を挿入し、呼吸を助けたり、たんを取り除きやすくしたりする処置が行われます。
しかし、気管切開を行うと特別支援学校の通学バスを利用できないという決まりがありました。バス内で頻繁なたんの除去が必要になるため、安全上の理由から通学が困難と判断されたのです。その結果、週に3回の訪問教育へ切り替えられ、外出の機会が大幅に減ってしまいました。
また、気管切開後はケアがさらに増えたことで、母親のななえさんが心身ともに休む時間は以前にも増して少なくなり、生活の負担が一層重くなりました。
続く在宅ケアと母親の葛藤
栄養や水分は、ポンプを使用して約20時間かけて胃ろうからゆっくりと注入します。吐き戻しがひどい場合には腸ろうを使い、さらにたんの吸引を頻繁に行う必要があります。夜間には酸素吸入を行い、母親のななえさんは十分な睡眠を取ることが難しい日々を過ごしています。
「お母さん、大丈夫ですか?」と、東京都世田谷区にある国立成育医療研究センターで受診した際、主治医の飯島弘之さん(37歳)は、在宅ケアに関する助言だけでなく、ななえさん自身の体調を気遣う言葉をかけてくれます。
しかし、ななえさんが自分の体調不良で医療機関を受診しようとしても、簡単には行けない現状があります。高度な医療ケアが必要な寅二郎さんを預ける施設は限られており、レスパイト(休息)のためのショートステイは費用が高額で、さらに順番待ちが必要な状況です。
挑戦の日々と未来への不安
2024年6月、特別支援学校中学部の3年生になった寅二郎さんは、運動会に参加しました。先生が車いすを押してくれる仕組みの「リレー」や、肘を使ってボールを筒に転がす「玉入れ」など、それぞれの生徒が無理なく挑戦できる工夫が凝らされていました。久しぶりに友達と顔を合わせた寅二郎さんは、とても生き生きとした表情を見せていました。
しかし、こんな心豊かな時間が一体どれほど続くだろうか――と、ななえさんは思わず考えてしまいます。医療的ケアを必要とする子どもたちは、学校を卒業した後の居場所が非常に限られているのが現実です。医療的ケアに対応できる成人の通所施設がごく少数しかないためです。
母の願いと抱える現実
身長120センチ、体重23キロと、寅二郎さんの体は医療的ケアを必要とする他の子どもたちと比べても小柄です。それでも、寝返りをさせたり抱っこをしたりすることは、年々負担が増してきています。
「私も年を重ねていくし、この子の世話を他の誰かに任せることは難しい。いつかこの子を見送った後、私もそのまま静かに人生を終えたい」――ななえさんはそう考えることが理想だと語ります。
すべての子どもが大切にされる社会を目指して
医療的ケア児を在宅で診療している「赤羽在宅クリニック」小児科長の森尚子さんは、かつて寅二郎さんの診療にも携わっていました。
「日本では、子どもの世話を親がするのが当たり前という考えが根強く、医療的ケア児のケアを担うのは多くの場合、お母さんたちです。中には人生のすべてを捧げるように毎日ケアに奮闘し、『この子を残して自分だけ先に逝けない。この子を見送った後で自分も死にたい』と心情を語る親御さんも少なくありません」と森さんは語ります。
しかし、親がいなくなっても子どもたちが社会から大切にされることこそが、真の幸せではないでしょうか。子どもは、健康であろうとなかろうと、社会全体のかけがえのない財産です。歩いたり話したりすることができなくても、ただその場に存在するだけで周囲の人々を幸せにし、人生の本当に大切なことに気づかせてくれる存在なのです。
弱い立場の子どもたちを守り大切にできる社会は、健康な人々をも幸せにする力を持つ――私はそう確信しています、と森さんは述べています。
このような医療的ケア児のシッターのニーズは多いと聞きます。今後もっとサポート体制が充実していくことを願わずにはいられません。